<ひなた・前半パートサンプル>              By 高野さんだよもん  新聞配達のバイクの音で、目が醒めた。   眼鏡を掛けて枕元の時計を見ると、まだ7時前だ。  せっかくの日曜日だ。もう少し寝よう。   再びベッドに寝転び、ゆっくりと目を閉じる。 「朝だよ、お兄ちゃん」  そして再びまどろみかけたと思った途端、ひなたが 俺の部屋に入ってきた。もちろん、ノックなんていう 洒落た行為などするはずもない。 「こらこら、俺の部屋に入るときは、ちゃんとノック してからにしろって言っただろ」  無駄だとは知りつつも、一応たしなめる。 「あっ、そうだっけ。ごめんね、お兄ちゃん」  けろりとした顔で言うひなた。断言してもいいが、 次に来る時もノックはないだろう。これでいいのかと いう気がしないでもないが、ひなたの屈託のない表情 を見ていると、まあ仕方ないかという気分になる。 「今日はすっごくいい天気だよ。ねえねえ、お散歩に 行こうよ、お兄ちゃん」  俺の考えをよそに、いつも通りの顔で言うひなた。  しかしこいつは普段はちっとも起きてこないくせに、 休みになると何故かやたらと早起きだな。 「…昨日遅かったんで、まだかなり眠いんだが」 「こんないいお天気なのにぐうぐう寝てたんじゃ、お 日さまに申し訳が立たないよ。ほら、早く早く」  そう言うと、俺の手をぐいぐいと引っ張る。ダメだ と言えば大人しく引き下がるのは判っているが、こん なに楽しそうにしているのに、それも可哀想だな。 「やれやれ、判ったから手を離してくれ」  苦笑して、体を起こす。  そして、寝巻き代わりに着ていたTシャツを脱ごう とする。胸の辺りまで脱ぎかけたところで、興味津々 といった表情で観察しているひなたに気付く。 「…着替えたいんだが、ちょっと出ててくれるか?」 「わたしは気にしないから、着替えちゃっていいよ」  俺の言葉に、あっけらかんと答えるひなた。 「…そういうわけにもいかんだろう」 「平気平気。だって兄妹なんだもん」  当然といった表情で答えるひなたの姿に、軽く溜息 をつく。やれやれ、困ったものだ。 「…とにかく出てろって、な」 「わ、わっ、ちょっと待ってよっ…」  ひなたの手を引き、部屋の外に連れ出す。何の抵抗 もせずに、おとなしくついてくるひなた。 「すぐ着替えるから、ここで待ってろ」 「うん。早くしてね」  素直に答えるひなた。ドアを閉め、手早く着替える。  ドアを開けると、ひなたはすぐ外で待っていた。 「さあ、早く早くっ」  急かすように、俺を引っ張るひなた。 「しかし、休みの日は早起きだな」 「せっかくのお休みだよ。寝てちゃもったいないよ」 「普段もこうだと、俺としてはありがたいんだがな」 「あはは、そうだね。ごめんね、お兄ちゃん」  他愛ない言葉を交わしながら、二人で階下に降りる。 「じゃあ、顔を洗ってくるから、ちょっと待ってろ」 「うん。玄関で待ってるからね」  手早く洗顔を済ませ、身だしなみを整える。 「お待たせ」 「もうっ、遅いよ、お兄ちゃん」  ぷうっと頬を膨らませるひなた。 「そうか?そんなに待たせてないだろ」 「1時間くらいは待ったような気がするよ」  真剣な顔で言う。しかし、待たせたのはせいぜい5 分といったところなんだが。 「そんなことより、早く行こうよ」  ひなたに急かされながら、靴を履こうとする。  と、リビングの扉の影に隠れ、こちらをじいっと見 ているかすみの姿が目に入った。 「あっ、かすみちゃんだ。一緒にお散歩に行こうよ」  目ざとくそれに気付いたひなたが駆け寄り、ぐいぐ いとかすみの手を引く。困惑顔のまま、こちらに引っ 張られてくるかすみ。 「これから、お兄ちゃんとお散歩に行くんだ。かすみ ちゃんも来るよね」 「で、でもっ、わたし、体が弱いですし、歩くのも遅 いですし、邪魔になっちゃいますから…」  慌てて答えるかすみ。  しかし、その表情は寂しげな気がする。 「だいじょうぶだってば、お兄ちゃんが一緒だもの。 いざとなったらおんぶしてくれるから。ねっ」  何故か胸を叩き、俺に視線を向けるひなた。それに つられて、心細げな視線を向けるかすみ。  二人の妹の、期待に満ちた視線を浴びる。  その真剣な表情を見ると、どうしても笑みが浮かぶ。 「あたりまえだろ。頼りになるお兄ちゃんなんだから。 ほら、行くぞっ、ひなた、かすみ」 「はーい」 「…は、はいっ!」  俺の言葉を聞き、ぱあっと明るい顔になる二人。そ の嬉しそうな表情を見ていると、貴重な睡眠時間を犠 牲にした甲斐があったものだという気分になる。 「それじゃ、行くぞ」  三人揃って玄関を出る。朝の爽やかな空気が、つい さっきまで眠っていた肌に心地よい。 「えへへっ」  いつの間にか、ひなたが俺の右手を握っていた。 「こらこら、甘えるんじゃないぞ」 「まあまあ、兄妹なんだからいいじゃない」  しれっと答えるひなた。というか、世間一般の兄妹 はこんなにベタベタしてないと思うが。 「…」  と、もの欲しそうな顔で、かすみがこちらを見てい るのが目に入る。俺が見ているのに気付き、真っ赤に なって目線を逸らすかすみ。  やれやれ、仕方ないな。  俺は笑いを堪えながら、かすみに左手を差し出す。 「ほらっ、早く手を繋ごうぜ」 「…え、えっ、ええっ!!」  状況が理解できなかったのか、しばらく呆然とした あと、突然真っ赤になって慌てるかすみ。 「かすみは、俺なんかと手を繋ぐのはイヤか?」  故意に悲しそうな表情を作り、声を掛ける。 「そ、そ、そ、そ、そんなことないですっ! そんな こと、あるわけないですっ!!」  慌ててその小さな手で、俺の手を握り締めるかすみ。 その必死な表情に、笑いが込み上げるのを堪える。  それを見て、何故か口を尖らせるひなた。 「あーっ。お兄ちゃんだけ二人と手を繋いでずるいっ。 わたしもかすみちゃんと手を繋ごうっと」  そう言って、あっけにとられる俺とかすみを尻目に、 自分の空いた方の手を、かすみの空いた方の手と繋ぐ ひなた。お陰で俺たち三人は、手を繋いで輪になった ような格好になった。 「…」 「…」 「…あれっ?」  朝っぱらから玄関先で、輪になって見詰め合う兄妹。 これは、なかなかシュールな光景ではあるまいか。 「…あはは、これじゃ歩けないね」  何故か嬉しそうな顔で言うひなた。  きょとんとした顔のまま絶句するかすみ。  その体勢のまま、しばらく時が流れる。 「…あなたたち、いったい何をしてるの?」  呆れたような声に、我に帰る俺たち。いつのまにか 玄関の中からに突っ立ったちはやが、新種の生命体を 見るかのような表情で、俺たちを見ていた。 「…何って、言われても、なあ…」  かすみの方を見て、呆然と呟く俺。 「…わ、わたしに言われても」  ひなたの方を見て、慌てて言うかすみ。 「…とりあえず、ちはやちゃんも入ってみる?」  ちはやの方を見て、勧誘を試みるひなた。 「…」  俺の方を見て、呆れたような顔になるちはや。  とりあえず、兄妹四人で手を繋ぎ、輪になっている ところを想像してみる。  …どこかで見たことがある光景だ。 「…そうか、テ○タビーズだな」 「…何か言いましたか、兄さん?」 「いや、何も言ってないぞ」  どこかから「なーかーよーしー」と言う声が聞こえ たような気がしたが、幻聴に違いない。 「…兄さん、ご近所の方に笑われるようなことだけは しないで下さいね。頼みますよ」  こめかみを押さえて深い溜息をつきながら、玄関の 扉を閉めるちはや。取り残されたのは、輪になったま まの俺たち三人。  顔を見合わせ、誰からともなく吹きだす。 \   とても天気の良い、日曜の朝。  何の悩みもない、満ち足りた生活。  こんな日々は、いつまで続くのだろうか。  こんな日々を、懐かしく思う日は来るのだろうか。 \  軽く頭を振り、頭を掠めたもやもやを振り払う。  これからのことは、これから考えればいい。  今すべきことは、可愛い妹たちの引率だな。 \  「それじゃ、そろそろ行くぞっ」 「「はいっ♪」」 ――――――――――――――――――――――― 各キャラのイメージ把握用に書いてみました。 とりあえず、このまま使用する予定はないです。 イメージが間違ってないかどうか、ツッコミ希望。   ―――――――――――――――――――――――